【星の魔術大綱】
初見の方は序章からお読みください。
第15章【Memorial party】葬礼饗宴3
2022/1/10
「————っ!」 ショーンは目を覚まし、仰向けで倒れていることに気づいた。 空は青々と冴え渡り、地面は黄土と茶土が混ざったような色をしている。風が吹き、頰に髪が当たる。すぐ右横を向くと、遠くでクラ ...
第15章【Memorial party】葬礼饗宴2
2022/1/10
現在時刻は10時半。パーティーを始めるのはお昼過ぎ。2日寝ていないアーサーは、流石に疲労で首を振り、眠気覚ましに切ったばかりのオレンジを齧った。メモリアル・パーティーには、故人の好物、神の好物、家族 ...
第15章【Memorial party】葬礼饗宴1
2022/1/9
[意味]・追悼会、慰霊祭、(仏教における)供養 ・ルドモンドにおける葬儀形式のひとつ。 [補足]「Memorial」は「記念」「思い出」を表す形容詞であり、「死者の追悼」「形見」をも意味する。 葬式 ...
第14章【Magnes】マグネス3
2021/12/23
……白い、昼の光が教室に差し込んでいる。 ここは……魔術学校の大教室だ。 昼食後に受ける午後の授業のまどろみの中、真鍮眼鏡を光らせたオーストーリー・バロメッツ教授が、杖でコツコツと教室の床を叩きなが ...
第14章【Magnes】マグネス2
2021/12/18
クラウディオの左人差し指から、勢いよく呪文が放たれた。 眩く輝く、黄色い閃光が、弾道のように猛スピードで大地をひた走る。 光はまっすぐ男の右肩へズドンと届き、そのまま左腰まで貫いた。 「さぁ、こちら ...
第14章【Magnes】マグネス1
2021/12/18
[意味]磁石の呼び方の一つ。イダ山で磁石を発見した、羊飼いの男の名前に由来する。 [補足]ローマ時代の学者プリニウスの『博物誌』第36巻25「磁石」によると、マグネスという男が家畜を放牧しているとき、 ...
第13章【Wall lock】ウォール・ロック3
2021/12/1
いつしか、一同はジーンマイセの丘を降りていた。コンベイとグラニテの間に立つ、標識の傍を通りすぎる。グラニテの標識がオリーブグリーン、コンベイの標識はクリームイエロー色だ。ここからいよいよラヴァ州の中央 ...
第13章【Wall lock】ウォール・ロック2
2021/11/28
比較的滑らかに進んでいた道のりが、徐々にタイヤの振動が目立つようになってきた。土の質感が変わっている。グラニテ最大のオリーブ園を抜け、空白の土肌が目立つようになっていた。 「ショーンさん、ここから少 ...
第13章【Wall lock】ウォール・ロック1
2021/12/12
[意味]ルドモンドの警察組織において、要人の身辺警護を専門とする警護官のこと。 [補足]要人の傍らに立ち、警護する様子を「Wall clock(柱時計)」に見立て、そこへ「lock(鍵)」とかけたルド ...
第12章【Lava】ラヴァ3
2021/11/6
時刻は朝6時半。靄はまだ明けない。 紅葉は携帯瓶の蓋をちゅぽんと開け、唇を水で湿らせた。 リーダーが休憩ではないと命じたのに、部隊の空気が緩んでる。 命じた当人でさえ、左前方にいる警官と楽しげ ...
第12章【Lava】ラヴァ2
2021/11/4
一方、同時刻の『鍛冶屋トール』。 リュカはあれから眠れずに、キッチンテーブルでじっと頬杖を突いていた。家族は何が起きているのかすら知らず、朝ぼらけのなか寝静まっている。 やかんがシュンシュンと鳴 ...
第12章【Lava】ラヴァ1
2021/11/7
[意味] ・火山から噴出した流動状の溶岩。または冷えて固まった火山岩。 ・ルドモンド大陸の北東に存在する州の名前。 [補足] ラテン語「lavare(洗う)」あるいは「labes(滑る)」に由来する。 ...
第11章【Black Maria】ブラック・マリア3
2021/11/1
「クソッ、こういう時って何が必要なんだ……!」 学校では教えてくれなかった。下宿の自室をひっくり返し、必要と思われる荷物を片っ端から鞄に入れた。 サッチェル鞄の中には、財布、手拭い、酔い止め、お菓 ...
第11章【Black Maria】ブラック・マリア2
2021/10/30
多くの飲食店が休日をとる水曜日、レストラン『ボティッチェリ』はなぜか煌々と明かりが点いていた。 「もう終わりだ、みんな。出頭すべきだ」 「バカを言うな、ピエトロ。町長はもう居ない、バレる可能性は低い ...
第11章【Black Maria】ブラック・マリア1
2021/11/23
[意味]・囚人護送車の俗称。・スペードのクイーン。またはその札を主役にしたトランプゲーム。 [補足]囚人護送車は「police van」「paddy wagon」といった一般的な名称のほかに、ブラック ...
第10章【Del Cossa】デル・コッサ3
2021/10/30
「オーナー……どういうことですか、何でこんな壊れているんですか」 「……階段から落としたんだ」 無残に打ち捨てられた甲冑が、物置でじっと佇んでいた。 現場を押さえられたオーナーが、苦々しく項垂れて ...
第10章【Del Cossa】デル・コッサ2
2021/10/30
「ウオッ、これがオスカー・マルクルンドの甲冑ですか。はー、やっぱすっごい……」 甲冑は相変わらず、邪魔な場所に鎮座していた。あるはずのない場所にある甲冑は、異常な威圧感がある。ホラー映画で、目を逸ら ...
第10章【Del Cossa】デル・コッサ1
2021/10/30
[意味] ルネサンス期に活躍したイタリアのフレスコ画家、フランチェスコ・デル・コッサ。(1436年〜1478年) [補足] イタリア北方で活躍した画家。壁画や祭壇画を制作した。代表作はドレスデンのアル ...
第9章【Arbor】アルバ3
2021/10/30
「ショーン!」 声の主を探すと、頬を紅潮させた紅葉が、出版社のガーゴイル像の前で駆け寄ってきた。 「紅葉……いま帰りか?」 「うん、ちょうど終わったとこ……会えてよかった……」 ……会えてよかった ...
第9章【Arbor】アルバ2
2022/1/3
紅葉は唾液が完全に乾ききり、喉が完全にカラカラになった。 窓辺に置かれた埃だらけのガラスの花瓶のようだった。 自分の角の表面が、ジワジワと干からびて痛みを感じる。古いフライパンを布鞄の上からギュッと ...
第9章【Arbor】アルバ 1
2021/11/20
古代、ルドモンドの学者や魔術師は、宮廷庭園の東屋に集い、学問や研究を行った。 ツタの葉が鬱蒼と巻きついた東屋の柱と、一体に見えるほど、知に打ち込む彼らを見て、民衆はいつからか、彼らを東屋そのもの、【 ...
第8章【Botticelli】ボティッチェリ3
2021/10/30
紅葉が鍛冶屋トールの裏口から飛び出して5分後。 「ふんふんふ、フーン♪」 メモを取りつつ意気揚々と出てきたアーサーを、紅葉は後ろから羽交い締めにして捕まえた。 「痛てててて……おやおや、どうした怖 ...
第8章【Botticelli】ボティッチェリ2
2021/10/30
「とりあえずここから出ましょう」 砂犬族の新米警備員マルセルは、マドカの散らかしたゴミを片付けて別れの挨拶をし、紅葉とともにその場を後にした。 マドカはあのまま突っ伏してベンチに寝ている。紅葉は、 ...
第8章【Botticelli】ボティッチェリ1
2021/11/20
3月9日、水曜日のお昼どき。 サウザスは昨日、事件が起きたとは思えないほど、活気ある町に戻っていた。 特に役場の前がすごく混んでいる。建物にはまだ入れないけど、職員が玄関先に机を出して、書類の届 ...
第7章【Ivy Vine】アイビー・ヴァイン3
2021/11/7
「いかがかね、ショーン君!最近のご活躍は!」 「……はぁ」 こんなの聞いてない。 役場に出向いたショーンは、州警によってすぐ別室へと通された。ブーリン警部の片腕らしき狼刑事に、事件の報告書を見せて ...
第7章【Ivy Vine】アイビー・ヴァイン2
2021/11/7
3月8日地曜日ちようび、時刻は午後11時を過ぎていた。 半日ぶりに荷物を戻されたショーンは、サッチェル鞄を肩へ担いだ。 警察と警備に取り巻かれ、役場の正面玄関の扉から出ると、まばらな野次馬たちの ...
第7章【Ivy Vine】アイビー・ヴァイン1
2021/11/7
[意味] ・蔦のツル。 ・ルドモンドにおけるアルバが所持する【真鍮眼鏡】のこと。 [補足] Ivyは蔦、またはウコギ科キヅタ属の総称「木蔦」。Vineは蔓、またはブドウ科ツタ属の総称「蔦」を意味する。 ...
第6章【Momiji】紅葉3
2021/10/29
何度も、色の洪水が襲ってきた。 丸い色の塊が、ふわふわと網膜の裏を流れ、 チカチカと光が点滅し、水がゴウゴウと流れる音がした。 うっすらと「本物の」光が頰に当たる。 本物の光は、熱量がある。 ...
第6章【Momiji】紅葉2
2021/10/29
3月8日午後8時。市場から出前が届いた。 皆で新聞が積まれた机を囲み、黙々とヌードルをすすった。 「……ちょっと辛いわね。スパイス効きすぎ」 「そうかい? これが美味しいんじゃないか」 モイラは ...
第6章【Momiji】紅葉1
2021/10/29
[意味] 晩秋、木の葉が赤色や黄色に変化すること。 ムクロジ科カエデ属の落葉高木の総称。英語で「maple」 鹿肉の俗称。 [補足] 日本語の動詞「もみず(木の葉が色づく)」が名詞化したもの。古くは「 ...
第5章【Ubiquitous】ユビキタス3
2021/10/29
ショーンは己の【真鍮眼鏡アイヴィー・ヴァイン】を耳から外して、クラウディオに手渡した。 彼は自分の四角い眼鏡を外し、代わりにショーンの眼鏡をカチャリとかけた。ショーンの丸い形の眼鏡は、面長の彼にあ ...
第5章【Ubiquitous】ユビキタス2
2021/10/29
アントンはしばらくメソメソし、時々グシュンと持参の毛布で鼻をかんでいた。(おそらくショーン用の毛布だった。) 「まあ……僕も拘束されてるようなもんだし、ただの事情聴取だって」 「………ヒック……グス ...
第5章【Ubiquitous】ユビキタス1
2021/10/29
[意味] 遍在する。同時にあらゆる場所に存在すること。 神があまねく場所に存在すること。 [補足] ラテン語「ubique(遍在する)」に由来する。1989年に米ゼロックス社のマーク・ワイザー氏が『コ ...
第4話【Gargoyle】ガーゴイル3
2021/10/29
「モイラ君、町長事件はどうなったかね?」 サウザス出版社の社長ジョゼフが、丸眼鏡をクイっとさせて、社内の奥にいる新聞室長に状況を尋ねた。 新聞室の室長モイラは、記事の原稿をチェックしながら冷徹に答 ...
第4話【Gargoyle】ガーゴイル2
2021/10/29
あれから机に突っ伏した後、緊張と不安のまま眠り込んでしまった紅葉は、お昼をとうに過ぎた3時半に、警察官に起こされた。 想定通り、10年前の事件について質問されたが、何も知らないと正直に伝えた。予想 ...
第4話【Gargoyle】ガーゴイル1
2021/10/29
[意味] 元は、雨樋の排水口に装飾された怪物を意味する。 [補足] ラテン語「gurgulio(喉)」に由来する。古代より、排水口を装飾する文化が存在し、主にライオンや魚の石像が使われていた。12世紀 ...
第3章【Thor】トール3
2021/8/22
「あの金鰐の下衆野郎は! 品位に欠ける!」 ヴィクトルがこんなに激昂している姿は、久々に見た。ショーンは吃驚して息を呑み、ユビキタスは静かに下を向いて笑ってる。 「彼に殴られた役場の人間が、毎週のよ ...
第3章【Thor】トール2
2021/10/29
北大通りを、まっすぐトボトボ、西へ歩く。このままずっと西へ行くと、酒場ラタ・タッタに到着するが、まだ帰るわけにはいかない。 カランカランと、鉱山夫の子供たちが、路上で車輪を転がして遊んでいる。ちょ ...
第3章【Thor】トール1
2021/10/29
[意味] 北欧神話に登場する、雷鳴と稲妻を司る軍神。鉄槌「ミョルニル」を武器に持つ。 [補足] 神々のなかで最も力が強く、赤い髭を蓄えている。全知全能神オーディンの息子で、若い戦士たちの指導者でもある ...
第2章【Thousas】サウザス3
2021/10/29
「はあ……銀行なんて行くんじゃなかった」 ショーンは恐ろしい空間から解放されて、ガックリと机に突っ伏した。黄金のお宝が沈むナイルの川底に、石で縛られ沈められたかのようだった。 「そうだ、次に行く時は ...
第2章【Thousas】サウザス2
2021/10/29
今日は3月7日火曜日ひようび。 時刻は昼の11時を過ぎたとこ。 「じゃあねー」 目的地でショーンを降ろした紅葉は、ギャリバーに乗ってドコドコと消えていった。ショーンは、土埃がついた服をパタパタ払 ...
第2章【Thousas】サウザス1
2021/10/29
[意味] ルドモンド大陸のラヴァ州北東部にある地区の名称。 [補足] 昔、この地区の鉱山で働く者は、総理事ブライアン・ハリーハウゼンによって、同じ型の肩下げ鞄「Satchelサッチェル」が支給されてい ...
第1章【Rat-a-tat】ラタ・タッタ3
2021/10/29
そもそもアルバとは何か。 アルバとは魔術師。 大陸ルドモンドにおける、帝国魔術師のことである。 年に一度、試験が行われ、帝国から正式に認定を受けた者だけが、その職を名乗ることができる。アルバに ...
第1章【Rat-a-tat】ラタ・タッタ2
2021/10/29
ショーンらが住むここ『酒場ラタ・タッタ』。 創業68年目を迎える、大きな2階建ての建物だ。 古びたワインウッドの外壁で、三角屋根も濃い紅色である。南北に長く、南側を酒場で使い、北側が下宿となって ...
第1章【Rat-a-tat】ラタ・タッタ1
2021/10/29
[意味] こつこつ、ドンドン、ダダダッ。 [補足] ドアを叩く音、太鼓を叩く音、機関銃の音などの擬音語。 ──ドンドンドンッ! 下宿所の一番奥の角部屋。そのドアを勢いよく叩く音が廊下に響いた。 ...
序章
2021/8/6
鉄と赤土と太鼓の町・サウザス地区。 どこまでも広がる赤土の大地には、多くの鉄資源が地下に眠っている。 昼は、あちこちの製鉄所や鍛冶場から、活気あるトンカチの音が響きわたり、夜は夜で、大通りから町の ...
あらすじ
それは10年前に起きた事件と同じだった。
羊猿族の若きアルバショーン・ターナーは、 田舎町サウザスで治癒師として退屈な人生を送っていた。
ある朝、サウザス駅で、金の鰐の尻尾が吊るされて発見された。尻尾の主である町長の姿は見つからない。それは10年前、謎の少女紅葉が駅で吊るされた事件と酷似していた。
ショーンは魔術大全書【星の魔術大綱】を片手に、紅葉とともに事件を解決をしに奔走する。だが、それは大陸を取り巻く巨大な陰謀の序章に過ぎなかった──
おまけ
キャラ名や魔術用語などの解説はこちら!
投稿サイト
外部の小説サイトです。感想やレビューを頂けると宣伝になったりお小遣いになります。